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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1326号 判決

控訴人 株式会社 駿木

右代表者代表取締役 畠山慶吉

右訴訟代理人弁護士 奥野兼宏

同 河村正史

被控訴人 高鹿至雄

右訴訟代理人弁護士 川尻政輝

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金二三七〇万円並びにその内金三〇〇万円に対する昭和五三年一一月六日から、内金三〇〇万円に対する同年同月一一日から、内金二八五万円に対する同年一二月六日から及び内金一四八五万円に対する同五四年九月二九日から、各完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。

この判決は、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  控訴人は、別紙手形目録記載のとおりの約束手形八通(以下「本件各手形」という。)を所持している。

2  被控訴人は、本件各手形につき手形保証をした。

3  控訴人は、別紙手形目録一ないし三の各手形を各満期に支払場所に呈示した。

4  よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件各手形金合計金二三七〇万円並びに本件の番号一ないし三の各手形金については各満期の日から完済まで手形法所定の、その余の各手形金についてはいずれも本訴訴状送達の後である昭和五四年九月二九日から完済まで商法所定の、いずれも年六分の割合による利息及び遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は否認する。本件各手形の振出は株式会社コーロクの記名判及び印章を不正に使用して偽造されたものであり、被控訴人名義の手形保証の記載は、無権限の者が被控訴人の署名ないし記名をし三文判を押印して、偽造したものである。

3  請求原因3の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  控訴人が本件各手形を所持していること及び控訴人が本件一ないし三の各手形を各満期に支払場所に呈示したことについては、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被控訴人が本件各手形について手形保証をした事実があるか否かについて判断する。

1  《証拠省略》によると、控訴人会社代表者である畠山慶吉と被控訴人とは予てから親しい間柄にあったことから、昭和五三年初めころから、控訴人会社と被控訴人が代表取締役を務める株式会社コーロクとの間で、いわゆる融通手形を交換し合って相互の資金繰りをするようになっていたが、そのうち株式会社コーロクの営業状態に不安が出て来たため、同年七月ころより以前に右の融通手形の交換に当たって、控訴人会社の代表取締役畠山慶吉から株式会社コーロクの代表取締役である被控訴人に対して今後株式会社コーロクの振り出す手形には同人の個人保証がなければ融通手形の交換には応じられない旨申入れたこと、また、株式会社コーロクにおいては、経理事務を担当する諏訪猛が同社の代表取締役である被控訴人に代わって同社名義の手形の振出しに関する事務をも処理しており、控訴人会社との間で交換する株式会社コーロク名義の手形の振出しについても、右諏訪が被控訴人の委任のもとに同人に代わってその事務を処理していたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

2  ところで、本件各手形である甲第一号証ないし第八号証の振出人欄における株式会社コーロクの記名印及び同名下の印影がいずれも同社の記名判及び印章によるものであることは被控訴人の認めるところであり、特段の反証がないから、右の記名印及び印影は同社の意思に基づいて押捺されたものと推認され、これによれば、本件各手形は同社が振り出したものと認めることができ、また、《証拠省略》によると、本件各手形も前記認定のような経緯で株式会社コーロクから控訴人会社に対していわゆる融通手形として振り出された手形であることが認められる。

3  そうすると、前記認定のとおり、控訴人会社から株式会社コーロクの代表取締役である被控訴人に対し同人の個人保証をするのでなければ融通手形の交換には応じられないとの申入れを受けていた株式会社コーロクが振り出した本件各手形に被控訴人名義の手形保証の記載がなされている場合には、仮りにその記載が被控訴人本人によってなされたものとまでは認められない場合であっても、前記認定のとおり被控訴人が自らが代表取締役を努める株式会社コーロクの控訴人会社に対する手形の振り出しに関する事務を諏訪猛に委ねていたことが認められる以上、右被控訴人名義の手形保証の記載が被控訴人の明示の意思に反してなされたものであるとか、あるいは右の記載が諏訪猛以外の第三者の手によってなされたものであるといった特段の事情の認められない限り、被控訴人の明示又は黙示の承認に基づいて本件各手形に対する手形保証がなされたものと推認できるものというべきである。

4  《証拠省略》によれば、本件各手形に被控訴人名義の手形保証の記載がなされていることは明らかであり、被控訴人は、右手形保証の記載は何者がなしたものか不明であると主張するが、未だ被控訴人名義の右手形保証の記載が被控訴人の明示の意思に反してなされたものであるとか、あるいは右の記載が被控訴人が自らが代表取締役を努める株式会社コーロクの手形の振り出しに関する事務を委ねていた諏訪猛以外の第三者の手によってなされたものであるといった特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

三  したがって、本件各手形は株式会社コーロクによって適法に振出され、かつ被控訴人が各手形について手形保証をしたとの事実が認められるものというべきであり控訴人の被控訴人に対する請求は理由があるから、これと結論を異にする原判決を取り消し、控訴人の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島恒 裁判官 塩谷雄 涌井紀夫)

〈以下省略〉

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